1.スピードガンの特性
今のところ150km/hを証明できるのはスピードガンだけです。
球速を気にする人であればまずこのスピードガンを意識しないことはないはずです。実はそのスピードガンにはいくつかの特性があるのです。
多くのスピードガンは反射角度式です。科学的な詳しい解説はここでは割愛しますが、この角度式という言葉からも分かる通り、音波の反射する角度によって速度を測っています。
ということは角度を誤って計測したりすることもありえます。
たとえばバックネット裏からこのスピードガンを構えて球速を計測する場合と、スタンド上部の高い角度からの計測では、計測された数字は違ってきます。
この場合はスタンド上部などの角度のついた状態のほうが球速は速く計測されます。
しかしだからといって我々ピッチャーが計測するスカウトなどにスタンド上部で計測するように頼めません。我々のできることとは、スピードガンに対して角度のついたボールを投げることです。
多くのスカウトはキャッチャーの後ろでスピードガンを構えます。このスピードガンに対して角度のあるボールというのは、低めのボールです。極端に言えばワンバウンドでもいいわけです。
多くのスピードガンの計測する球速というのはボールをリリースした直後のピッチャーの手元の初速(これがバッテリー間で最も速く計測される部分です)ですから、ワンバウンドしようが関係ありません。(しかし実際にはワンバウンドするボールを投げる際のリリースポイントが我々ピッチャーの投げる最速のボールではなかったりしますが。)
もし高目に投げるボールと低目に投げるボールの初速が純粋に同じであった場合、スピードガンには低目のほうが速く計測されるのです。
そして中にはスピードガンの調整をわざと誤って計測するようにしてある場合もあります。
これはピッチャーの球速をわざと速く思わせるための方法のひとつですが、球場に備え付けのスピードガンなどの調節を速めに計測されるようにしておけば、観客はマウンドで投げるピッチャーの投げるボールを速く感じることによって 盛り上がる→集客が見込める ということにつながります。特に球速が150km/hを超えるということで有名なピッチャーが先発する日などは、球団ぐるみでスピードガンを調整していたりすることもあったりします。(スピードガン表示だけを変えている場合もあるそうです)
観客を盛り上げるために調節する場合以外に、スカウト自身がスピードガンを調節してしまうこともあります。
これはスカウトの上司であるスーパーバイザーなどに自分の気に入ったピッチャーの能力を高く評価してもらいたいために、わざと少し速く計測されるスピードガンで計測し、その数字をスーパーバイザーに直接見せて納得させるためです。実際に多くのスカウトの集まる合同トライアウトなどでは、スカウトの構えるスピードガンによってずいぶん差があるものです。
私の場合はこういったトライアウト中に、ある一人のスカウトの持っていたスピードガンが94マイル(151.2km/h)を計測したことがあります。しかしこれは信頼性の低い数字であるので、試合中に計測した93マイル(149.6km/h)というのが私にとっての正しい最速であったのかもしれません。
ということはギネス公認のスピードガン調節以外は信頼できないということになってしまいます。
しかし現に我々はスピードガンコンテストをしているわけではありません。いかに試合に勝つか、いかに相手バッターを抑えるか、そのために日々トレーニングや練習を積み重ねるのです。
とはいえ、スピードには何物にもかえがたいロマンがあります。
そこには145km/hを超えた速球を投げたピッチャーでも一握りの選手しか体験できない世界があります。
スピードは脅威です。
スピードはリスクです。
スピードは財産です。
恵まれた才能を最大限に発揮出来た者だけの世界は決して艶やかなものではありません。多くのものが怪我やスピードの幻想に野球人生を終わらされています。
スピードガンはピッチャーを狂わせてしまうこともあることを覚えておいてください。
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