T.ウエイトトレーニングに対する誤解
ウエイトトレーニングは野球選手にとって必要ないという声を聞いたことはないでしょうか?そしてこの問題は常に野球選手とってつきまとうテーマでもありました。なぜこのようなことになったのか、誤解とその背景を検証してみます。
ウエイトトレーニング普及の経緯
そもそも重りを持ったウエイトトレーニングが普及したのはどういった経緯だったのでしょうか?筋肉を大きくするための方法として考案されたウエイトトレーニングは、ある意味不自然な行為でもあります。
自然界の動物達は生きていくために必要な筋肉をつけていきます。走ったり、木に登ったり、泳いだりしながら体を発達させていくわけです。これらは本能に刻まれており、より速く走るため、より速く泳ぐため、より強く咬むため、そのために必要な筋肉をその行為そのものを行いながら、発達させていくわけです。
しかし人間は、より大きく、そしてより強い筋肉を求めたのです。それがたとえ生活で必要のない筋肉であってもです。
この部分の考え方がある誤解を生んだのです。
生物の進化の歴史は、より小さく、より少ない消費エネルギーで生き延びれるように、と進化してきました。体の大きな生物は絶滅の一途をたどっていったのです。なぜなら生きるために多くのエネルギーを必要とするので、多くの食物(えさ)を必要としたのです。そのような生き物は繁栄できなくなるのは食物連鎖からも分かると思います。
しかし人間は違いました。より大きくなることを望んだのです。生物の進化の法則に逆らっているとも言える文化を我々人間は歩むこととなるのです。
しかし人間の本能には、大きくなる方法は書かれていませんので、大きくなりたいと望めば、自然の摂理に逆らうことになるのです。ということは自然の法則に逆らおうが関係なく、筋肉が大きくなる方法が普及することになるのです。
使えない筋肉のレッテル
自然の法則に逆らうということはその筋肉は使えない見せ掛けの筋肉ということになります。しかし、筋力は確実に上がる。一体、使えないということはどういうことなのでしょうか?
世界一速く泳ぐことの出来るスイマーが、筋肉隆々のボディビルダーのような体でしょうか?筋肉隆々で、ペンチプレスは140キロを上げられる能力があっても、西武の西口選手のような速球は投げられるでしょうか?
そうでないことは明白ですし、我々もそれは既に心得ています。
なぜベンチプレスが140キロも上がる能力があるのに西口選手よりも速く投げられないのでしょうか?
これはトレーニングそのものに問題があります。ベンチプレスを140キロも上げられる人の大胸筋や上腕三等筋は太く硬いはずです。本来筋肉は脱力している場合は柔軟で薄いのです。そう、硬く太くするようにトレーニングをすることで、筋肉は効率よく大きくなっていくのです。
これがウエイトトレーニングが野球選手に必要ないという判断の基準に結びついてしまったのです。
使える筋肉はウエイトトレーニングで鍛えられないか
もともとウエイトトレーニングの考え方はいかに短期間で効率よく筋肉を大きくするかという観点で考案されました。大きく発達させるには、大きく傷つける動作を必要とします。大きく傷つける動作とは、筋肉がついている関節に対して、本来の動きでない動作ということになります。
←本来の腕の動き:手のひらを下に向け腕を伸ばし、曲げると共に手のひらを顔のほうに向けるようにひねる。
本来の動きでない動作→:手の平を上に向け、腕を伸ばし、そのまま曲げる。多くのウエイトトレーニングの上腕二頭筋のトレーニング方法がこのような、筋肉に対して不自然な動作で行われる。その方が筋肉を傷つけるのに効率がいいのである。
本来の筋肉の動きで筋肉を鍛えることが出来るならばそれがスポーツにとって最善の方法のはずである。それでは本来の動作か、そうでないかはどのようにして見極めればいいのであろうか。
筋肉は一体どこに付いているのか
筋肉は関節付近にその末端があります。関節は骨と骨がくっついているポイントです。そして関節には稼動域というのがあり、曲げたり伸ばしたりできる範囲というものがあります。それとは少し違って、筋肉の稼動域というものもあります。一見すると同じように思えますが、
関節の稼動域 ≠ 筋肉の稼動域
なので、注意が必要です。具体的には、腕を伸ばしてみてください。まっすぐに伸ばせば、もうそれ以上腕は伸びませんね?そのまま反対方向にまで逆に曲がったりはしないはずです。それが関節の稼動域の限界点なのですが、筋肉は更に伸ばすことができます。
←関節の稼動域:関節はこれ以上伸びない。しかし筋肉(上腕二頭筋の下の方の筋肉に注目してほしい)はまだ伸びる余地がある。
筋肉の稼動域↓:筋肉を最大限に伸ばす場合は手のひらを外側にひねる。分かりにくい場合は、実際に自分自身の腕で確認してほしいのだが、手のひらのひねる向きによって、筋肉の端が伸びるのが目で見て確認できる。
この筋肉の稼動域を確認しながら、ウエイトトレーニングの動作を考える必要があります。特に肩関節は複雑ですので、これに関しては皆さん自身が確認するのは困難かと思いますので、私のほうで解説をさせていただきます。
ウエイトトレーニングは筋肉を硬くするか
一般的な意見として、ウエイトトレーニングを行うことによって筋肉が硬くなって、稼動域を狭め、筋収縮速度が落ちる、という俗説をよく耳にします。これも間違いではありませんが、そもそもこのような症状になってしまうこと自体、間違ったウエイトトレーニングをしていることが原因です。
上記でも確認したとおり、筋肉の稼動域を目一杯使い、しかも少し特殊なタイミングでトレーニングを行うことによって、稼動域は広くもなります。
ウエイトトレーニングが稼動域を狭くしているのではなくて、稼動域を狭くする方法でトレーニングをしていただけなのです。
まさしく筋肉の収縮速度が上がれば、スポーツでの動きも速くなります。しかし、個体特性といって、筋肉の付け根が骨のどの部分についているか、骨の長さ、筋肉の長さ、などによっても厳密には速度は変わってきます。(テコの原理ですね)
次回はその筋肉の鍛え方と、いかに筋肉が発達するのかといったメカニズムについて説明したいと思います。
次回
筋肉発達のメカニズム
次回掲載は来週を予定しています。 |